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Scope 3削減の実践ロードマップ|サプライヤーエンゲージメントの具体策と他社事例

Scope 3削減において、多くの企業が「算定までは終わったが、サプライヤーをどう動かせばよいか分からない」という壁にぶつかる。Scope 3排出量の多くは自社ではなくサプライチェーン上の取引先が排出しており、削減の中核はサプライヤーエンゲージメントにある。本稿では、Scope 3算定後の企業担当者が「どのサプライヤーに、どのように働きかけるか」をイメージできるよう、サプライヤーエンゲージメントを中心軸に据えたロードマップと具体的施策を提示し、他社事例を交えながら、効果的なサプライヤーエンゲージメントの方法を探っていく。

目次

  1. なぜ今サプライヤーエンゲージメントが重要なのか
  2. Scope 3削減に向けたロードマップ:エンゲージメントを中心に据える
  3. 削減を前に進める社内体制づくり
  4. どのサプライヤーに働きかけるか:優先順位とエンゲージメントの基本
  5. サプライヤーと連携した削減シナリオ
  6. カテゴリ別の削減施策 
  7. 他社事例
  8. 3つのアクションから着手

1.なぜ今サプライヤーエンゲージメントが重要なのか

多くの企業では、排出係数の低い燃料への転換や使用電力の再エネ化等により、Scope 1と2の削減は一定程度進んできたが、サプライチェーン全体を含むScope 3が依然として排出量の多くを占めることが明らかになっている。CDPによる2024年のレポートでは、サプライチェーン排出量は自社排出に比して平均26倍に上ることが報告されており、自社単独の削減と比べてはるかに大きな削減インパクトがあることが示唆されている 。
企業の外部動向に目を転じれば、TCFDISSB(SSBJ)、CDPなどの枠組みがScope 3の開示と削減目標設定を強く求めるようになり、投資家や金融機関もサプライチェーン全体での移行計画を重視する傾向にある。主要顧客の調達要件にScope 3情報が組み込まれるケースも増え、「取引を続けるための前提条件」としてScope 3削減が求められる場面も見られる。
Scope 3削減への取り組みは、規制対応やレピュテーション確保にとどまらず、自社にとって調達リスクの低減、コスト構造の見直し、新規市場・顧客へのアクセスといった事業機会にも直結する。サプライヤーや顧客と連携してバリューチェーン全体の排出を下げることで、自社だけではなく相手企業のScope 3削減にも貢献できる「Win-Win」の関係を築ける点も特徴である。

2.Scope 3削減ロードマップ:エンゲージメントを中心に据える

Scope 3の算定が終わった企業に必要なのは、「数字を眺めるステージ」から「サプライヤーと削減ストーリーを描くステージ」へと進むことである。以下の3ステップに加え、各ステップでサプライヤーをどう位置付けるかを明示することが重要となる。
①ゴール設定
SBT目標などを参考に、「2030年までにScope 3全体で○%削減」といった全体ゴールを定める。同時に、Scope 3全体に占める割合の大きいカテゴリを明示し、「どのカテゴリに寄せるか」のイメージを共有する。SBTiでは、サプライヤーにも整合した目標設定を求める「エンゲージメントターゲット」を設けることをベストプラクティスとしており、自社目標と連動してサプライヤー側の削減ターゲットを設定することが望ましい 。
②重点領域の特定
算定結果をもとに、カテゴリごとの排出量とサプライヤーに対する自社の影響力(仕様変更の可否、取引関係の強さなど)を整理する。「排出量が大きく、かつ自社の働きかけで削減しやすい領域」から優先的に着手することで、効率的に削減を進められる。
③施策ポートフォリオと計画
各重点カテゴリについて、「活動量を減らす」「排出原単位を下げる」「算定精度を上げる(一次データの積極活用)」の3軸で施策候補を整理する。削減ポテンシャルとコスト・期間を見積もり、3〜5年程度のロードマップとしてまとめ、サプライヤーとの協議材料にする。その際、自社の削減目標を起点にサプライヤーへのエンゲージメント方針(目的・対象選定・支援策・タイムライン)を一体で設計することが望ましい。

3.削減を前に進める社内体制づくり

Scope 3削減、とりわけサプライヤーエンゲージメントは環境部門だけでは完結しない。環境省モデル事業の事例では、調達部門との連携を経営層からトップダウンで推進した企業が取り組みを加速させており、「調達部門が取引先の窓口を担い、環境部門がGHG算定を主導する」といった社内の役割分担が実践的に機能していることが示されている 。こうした事例から、調達・開発・生産・物流・営業・経理/IRなど多くの部門が関わる「経営テーマ」としてのGHG削減(位置付け)と共に、経営層のコミットメントを明確にした社内体制構築を学ぶことができる。具体的には、環境・調達・主要事業部などからメンバーを集めた部門横断タスクフォースを設置し、エンゲージメント方針・役割分担・データ管理のルールを定めることが含まれる。また、エンゲージメントに係る内部炭素価格の設定や役員報酬への削減目標の組み込みなど、削減目標達成を経営に直結させる仕組みも有効とえる。

4.どのサプライヤーに働きかけるか:優先順位とエンゲージメントの基本

全サプライヤーへの均一なアプローチはもとより現実的ではないため、下記の3軸で優先順位を整理し、重点サプライヤーから着手することが肝要である。

  • Scope 3への寄与度:購入額・数量・原単位から見た排出インパクトの大きさ
  • 自社の影響力:仕様決定権の有無、取引の深さ、代替調達手段の有無
  • 相手の成熟度:GHG算定やSBTへの取り組み状況、削減余地の大きさ
環境省のガイドラインより、サプライチェーンエンゲージメントの対象選定において考慮すべき「削減優先度」「取引先との関係性」「取引先の意欲・知識」の3つの要素の掛け算を示した構造図

図1:エンゲージメントの対象の選定で考慮する要素

(出典:環境省『バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド』)

その上で、サプライヤーの算定状況を「未算定(Stage 0)→Scope 1, 2算定済み(Stage 1)→Scope 3算定済み(Stage 2)→CFP算定済み(Stage 3)」のように階層的に分類し、グループごとにエンゲージメントのタイムラインを設定するアプローチが有効といえる。ある企業では、サプライヤーアンケートを利用してサプライヤーの脱炭素取り組み状況を把握し、各サプライヤーの取り組みレベルに応じて、算定・目標設定・削減施策検討を段階的に展開している。
一方、こうした取り組みにおいては留意点もある。公正取引委員会「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(2023年)によれば、①依頼への対応がサプライヤーの任意の判断に委ねられていること、②依頼する取り組みがサプライヤー側の直接の利益につながることが担保されている必要があり、サプライヤーへのデータ提供依頼や契約条件への追加が独占禁止法・下請法と抵触しないよう気を配る必要がある点も附記しておく。

環境省のガイドラインより、サプライチェーンの取引先がStage 0の未算定から、Stage 1のScope 1,2算定、Stage 2のScope 3算定、Stage 3の算定精緻化へと段階的にステップアップしていくプロセスを示したロードマップ図

図2:段階的な依頼による算定高度化のイメージ

(出典:環境省『バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド』)

5.サプライヤーと連携した削減シナリオ

エンゲージメントの基本は「要請」と「支援」の組み合わせである。自社からの要請のみでは取引先からの協力は得づらいため、前章で触れたサプライヤーの取り組み段階に応じて、「知る(取り組み理解の醸成)」「測る(排出量算定)」「減らす(削減計画と実行)」支援を組み合わせることが推奨される 。優先サプライヤーを特定できたら、「どのカテゴリで、どのような削減シナリオを一緒に描くか」を、次の4ステップを踏みながら整理する。本節では、カテゴリ1を例にする。
1.    現状把握:どの品目群・サプライヤー群が大きな排出を占めているかを可視化する
2.    目標の共有:自社の削減目標とカテゴリ1に期待する削減量を伝え、サプライヤー側の制約条件をヒアリングする
3.    施策の束をつくる:軽量化、リサイクル材利用、省エネ生産プロセスへの移行など、複数施策を組み合わせた削減パスを描く
4.    一次データとインセンティブ:サプライヤー固有の排出原単位を共有してもらい、改善が自社Scope 3に反映される仕組みを構築するとともに、評価・表彰や優先発注などのインセンティブを検討する
サプライヤーへのインセンティブ設計は「能力開発(算定支援・研修)」「取り組み評価(表彰・比較)」「優遇(発注優先・長期契約)」などの形で展開ができる。

環境省のガイドラインより、サプライチェーンエンゲージメントにおいて取引先に提供する「能力開発」「取組評価」「優遇」の3つのインセンティブ手法とその概要を示したマトリックス図

図3:取引先へメリット・インセンティブを与える手法の例

(出典:環境省『バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド』)

6.カテゴリ別の削減施策(カテゴリ1と4)

ここまで整理が出来たら、Scope 3削減のシナリオを実行していくのみである。主要カテゴリ1と4の戦略事例を、本稿2節③にて示した「活動量削減」「原単位削減」「算定精緻化」の3軸で提示する。

カテゴリ1:購入した製品・サービス
GHGプロトコルのScope 3ガイドでは、カテゴリ1の主要削減要素として、サプライヤーエンゲージメント、調達方針の見直し(低炭素サプライヤーや代替材料の選択)、製品設計の改善が挙げられている。
•    活動量を減らす:仕様見直しによる材料使用量の削減(軽量化・部品統合)、過剰在庫・廃棄ロスの削減
•    排出原単位を下げる:再生材・バイオ由来材など低炭素材料への転換、再エネ利用・省エネ設備を導入したサプライヤーへの切り替え、LCAによるカーボンホットスポットの特定と設計変更
•    算定精緻化:産業連関表ベースの平均原単位からサプライヤー固有の排出係数(EPD・製品LCA)への切り替え、デジタルプラットフォームによる排出データの定期収集

カテゴリ4:上流の輸送・配送
輸送モード・距離・積載効率の要素で大きく変動するカテゴリであり、輸送最適化とモード転換が鍵になる。
•    活動量を減らす:ルート見直しによる輸送距離の短縮、積載率向上・共同輸送によるトンキロ削減
•    排出原単位を下げる:トラックから鉄道・船舶へのモーダルシフト(鉄道はトラックの約1/11、船舶は約1/5のCO2原単位);低炭素燃料や電動車を導入している物流事業者との連携
•    算定精緻化:距離×重量×モード別原単位による算定で効率化効果を反映、物流事業者から実績ベースの排出データを取得

7.他社事例

カテゴリ1米国大手小売チェーン
約6,000社のサプライヤー(購入金額ベースで75%以上)に参加を求め、2030年までに基準年比でサプライヤー排出量を合計10億トン削減する目標を設定した。エネルギー・廃棄物・包装・輸送など6テーマから1つ以上の目標・実績報告を求める「要請」に加え、PPA契約の斡旋や再エネ導入支援など具体的な「支援」も組み合わせている。
カテゴリ4国内大手消費財メーカー
年間数十億個を超える消費財を輸送・流通させており、トラック輸送から鉄道・船舶へのモーダルシフトを継続的に推進し、一括大型輸送によるGHG削減を図っている。鉄道輸送のCO2排出原単位はトラックの約11分の1、船舶は約5分の1であり、輸送モード転換の削減効果は大きい。

8.明日から始める3つのアクションから着手

Scope 3削減の鍵はサプライヤーをいかに動かすかにある。一見複雑に見えても、「全体ロードマップ」「優先サプライヤー」「主要カテゴリの具体策」の3点に分解すれば、実務の一歩目を踏み出すことは可能である。
1.    Scope 3算定結果をもとに「自社の重点カテゴリ」と「関与しやすい領域」を整理する
2.    重点カテゴリについて、活動量削減・原単位削減・算定精緻化の3軸でアイデアを書き出す
3.    優先サプライヤー数社と、Scope 3削減をテーマにした意見交換の場を設ける
こうした小さな一歩の積み重ねが、「Scope 3算定は終わったが次が分からない」という段階から、「自社らしいScope 3削減ストーリーをサプライヤー・顧客と共有できる」段階への確実な前進につながる。

【参考資料】
バリューチェーン全体の脱炭素化に向けたエンゲージメント実践ガイド 令和7年度改訂版|環境省
サプライヤーエンゲージメント事例集 バリューチェーン全体の脱炭素化に向けての「要請」と「支援」の事例|環境省
Corporates’ supply chain scope 3 emissions are 26 times higher than their operational emissions|CDP
Value Change in the Value Chain: Best Practices in Scope 3 Greenhouse Gas Management. |SBTi
鉄道:環境面から見た貨物鉄道輸送|国土交通省