最近、メディア等において、TCFD提言に関する話題が急速に増えているとともに、企業側の関心も急速に高まっていることを日々のコンサルティング業務の中で実感している。そこで、TCFD提言について、2回にわたってそのポイントを解説する。
TCFD提言とは、TCFD※が2017年6月に公表した、投資家が企業の気候関連リスク・機会を適切に評価するための開示フレームワークのことをいう。企業にとってTCFD提言に関する重要性が急速に高まりつつある。その背景は次の通りである。
気候変動は今後最大のグローバルリスクの1つであり、人類の存続にも大きな影響を及ぼす社会になりつつある中、2016年11月にパリ協定が発効した。パリ協定では、「気温上昇幅を産業革命前から2℃未満に抑える」こと、そのためには、世界全体の温室効果ガス排出量を今世紀後半に「実質ゼロ」にすること等が定められた。温室効果ガスの排出を将来「ゼロ」にすることが決まったということで、このパリ協定は、ビジネスを含む社会全体の大転換点になったといえる。
その後、温室効果ガスの主な排出源である化石燃料への圧力の高まり(例:政策・規制の進展(例:ガソリン車販売禁止)、補助金等の廃止、ダイベストメント)、温室効果ガスを排出しない再生可能エネルギーのニーズの増加、自社から排出される温室効果ガスだけではなく、バリューチェーン全体の温室効果ガス排出量(例:調達先や販売する製品からの排出量)のマネジメントへの圧力の高まり、パリ協定に整合した削減目標(Science Based Target, SBT)設定への圧力の高まりといった、事業に直接的に影響する施策・制度が進展している。そのため、企業の気候関連リスク・機会への対応戦略の巧拙が財務及び事業継続に大きな影響を与える社会になり、企業の気候変動対応戦略に対する投資家等の関心やESG投資が急速に進展しつつある。
特に長期目線で投資を行うESG投資家の関心は急速に高まっている。そして、それらの基盤となる気候変動対応を含むESG関連情報開示への圧力が急速に高まっている。
2018年10月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)から「1.5℃特別報告書」が発行されたことや、実質的な気象災害の頻発などの背景により、企業の気候変動対応の重要性がさらに高まりつつある。
以上をふまえ、企業の気候変動対応を含むESG情報の開示の枠組みの重要性が急速に高まってきたこと等がTCFD提言の公表のきっかけとなったといえる。
次回は、TCFD提言が求める内容とその対応方法についてそのポイントを解説する。
※TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures, 気候関連財務情報開示タスクフォース。
(TCFD設立の背景)
気候変動問題は最大のグローバルリスクの1つであり、投融資先の企業活動・財務に多大な影響を与える可能性があることから、2015年にG20財務大臣及び中央銀行総裁がFSB(Financial Stability Board, 金融安定理事会)に対し、気候関連リスク・機会をどのように考慮できるかレビューするよう要請。FSBは、金融機関が企業の気候変動リスク・機会を適切に評価できるより良い情報が必要との結論の元、TCFDを2015年12月(COP21期間中)に設立。その後、企業の気候関連リスク・機会の情報開示フレームワークの策定準備を開始し、2017年6月、最終報告書を公表。当報告書において、企業の気候関連リスク・機会を適切に評価するための開示フレームワーク(TCFD提言)が示されている。