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欧州で急速に進む高度リサイクル技術への投資

現在欧州では、各種金属価格の上昇とサーキュラーエコノミー政策によるリサイクル材への需要増が、高度なリサイクル技術への投資を活発化させている。

2021年4月中旬、米大手金融機関の報告書による今後の銅価格予測が話題になり、欧米の様々なメディアで取り上げられた。
報告書では、世界が再生可能エネルギーに移行することで、銅は「新しい石油」となり、2025年までに価格が1トンあたり15,000ドルに達する可能性がある、としている。

特にストラテジストから強調されたのは、前回の資源価格の長期上昇(スーパーサイクル)時に主役だった中国を中心とした世界が設備投資に費やしたのは10兆ドルほどであったのに対し、今回各国政府が脱炭素化の目標を達成するためにグリーンインフラに投資する必要がある額は、16兆ドル近くにのぼる、とした部分である。これらのインフラの要となる、主役の金属は「銅」であるとしている。

本稿では詳細は割愛するが、自動車の電動化に向けたリチウムイオン電池に関しては、すでに電池の製造や技術よりも、まず材料の確保に向けて、欧米各社は買収や協業を相次いで発表している。

リチウムイオン電池に使用する銅、ニッケル、アルミニウム、コバルト、マンガン、そしてリチウムについては、カソード材や前駆体を含めた原材料の確保が事業成功の生命線となっている。現在これらの原材料で圧倒的なシェアがあるのは中国メーカーであり、欧州では危機感が増している。2021年5月、欧州の材料最大手の1つであるUmicore(ユミコア)社と化学会社最大手のBASF社が、リチウムイオンのカソード材料とその前駆体を対象とした特許のクロスライセンス契約の締結を発表したことは、記憶に新しい。

プラスチックに関しては、欧州ではすでに、リサイクル材料の比率を定めた欧州指令や包装税の導入など、リサイクル材料を製品に利用することが法的にも求められるようになりつつある。
これを受け、大手製品メーカーの多くは、リサイクル材料の利用率目標を公表している。現在ではバージン材よりも製品に使う純度までリサイクルされた材料の方が価格が高い状況が常態化しているが、特に欧州で急速に採用が進んでいるリサイクルペット樹脂(rPET)については、バージン材の1.5倍ほどの価格でも、材料の確保が難しいという状況が生まれている。
エネルギー転換とインフラ投資の急激な増加、そしてサーキュラーエコノミー政策によって、金属や再生プラスチックの価格は上昇しており、世界の規制の潮流や投資規模から、価格が「新しい段階」に入ったとみる報道が始まっている。

こうした中、廃棄物から生成されるリサイクル材料の必要性は共通認識となりつつあり、より純度の高いリサイクル材料を生産でき、且つ廃棄物を大量に処理することのできるシステム作りが、喫緊の課題となっている。
その中でも、今まではコストと技術的成熟度に課題があり、普及が進まなかった以下の3つの技術への投資が加速している。


投資が加速している3つの技術

①センサー選別技術
1つ目は、センサー選別技術である。
中でもX線、カラーセンサー、レーザーセンサー(ラマン分光)の3つの技術への投資が動き始めている。いずれも、設置や周辺設備を含めると1設備で5000万円から1億円を超える投資となるが、欧州の設備メーカーの受注は増加し続けている。

センサー選別装置の最大の課題は生産量と歩留まりにある。センサー選別では、対象物が大きく、且つ大きさがなるべく均一で、汚れが少なく、また、移動速度が遅いほど、センサーの感知精度が上がり物理的に分離しやすい。生産量を上げるために投入量を増やすには限界があり、対象物の大きさにも一定の条件がある。近年、センサーの感知能力、搭載するシステムコンピューターの演算速度、選別対象物の小粒化対応が飛躍的に向上してきたが、今まで導入が進まなかった要因として、設備投資に対する成果物の収益分岐点が合わないという課題があった。その壁が、前述の環境変化によって低くなってきている。
特に、選別能力は高いが設備投資コストが大きいX線の選別システムの導入が進み始めている。用途としては、主に混合金属屑からの特定の金属の選別や、アルミニウムの鋳物と鍛造合金を分けたり、プラスチック混合物からPVCを分けたりする目的で使われている。

レーザーラマン分光選別は、プラスチックの選別では比較的新しい技術で、現在市販の機械を販売しているのは、ドイツの1社だけである。自動車や家電のエンジニアリングプラスチックで多く使用されている黒色のPPやABSを選別できるだけでなく、PETフレークに混入しているPP、PS、 PVCを分ける用途で使用されている。
特に欧州ではリサイクルPET(rPET)の需要が急増しており、機械メーカーもバックオーダーを1年先まで抱えた状態となっている。

②人工知能(AI)とロボット技術
2つ目は、人工知能(AI)とロボット技術である。
リサイクルで利用されるAIで現在主流となっているのは、コンベアを流れる廃棄物の画像から使用されている材料を認識するものである。元々その工場で処理される廃棄物の画像を基本データとして保存し、AIが、実際の工場内のコンベアで流れている廃棄物を形、色、透明度、断片等から比較しながら学習していく、というものである。
そのため、システムを導入する前のテストで時間を掛けながらAIの認識力を高めていくことになる。
本サイトでも2021年1月27日に「AIがリサイクルにもたらす新しい価値」で紹介したイギリスのRecycleye社では、欧州でも最大手のリサイクル会社で継続して廃棄物のスキャニングを実施しており、すでに、コンベア上に流れる廃棄物を2億7,000万回スキャンし、クラウドに学習データとして蓄積している。現在はロボットメーカーとも協賛し、廃棄物ピッキング用のロボットを、画像認識用カメラシステムに内蔵されたコンピュータシステムから直接動かしている。廃棄物を画像認識するAIコンピューターが、クラウド上の廃棄物ビッグデータと常時通信しつつ、ピックアップ用のロボットを動かすデータ信号を発信するというもので、1台の画像認識AIコンピューターが全てを行うという極めてコンパクトなシステムを完成させている。ロボットは複数台の利用が可能である。

リサイクル用AIシステムは、将来、廃棄物管理の方法そのものを変える可能性がある。
例えば、ある業界団体が拡大製造者責任の下、その業界の製品廃棄物を収集し、それらをAIが各社ごとの廃棄物に分ける、ということが容易にできてしまうからである。現実的に、技術はそこまで追いついてきている。現在ペットボトルはフタ(PP)と包装(PS)を分けて廃棄することが推奨されているが、AI技術を利用すれば、フタも包装も全て付いた状態の廃棄物がメーカーごとに分けられ、メーカーはフタも包装材も一緒にリサイクルすることができる。
メーカーとしては、自社の製品が戻って来るだけなので、材料や素性が分かっておりリユースやリサイクルがしやすく、リサイクル材の利用も、より容易になる。


AIとビッグデータがマーケティングと消費を大変革したように、リサイクルにAIがもたらすインパクトと価値は、現在の予測を超える可能性があるといえる。

③ケミカルリサイクルの新技術
3つ目は、プラスチックのケミカルリサイクルにおける新技術への投資である。すでにいくつかは報道されているが、代表的な例を1つ挙げる。
2020年4月末、世界3大化学メーカーの1つであるアメリカのダウ・ケミカル社が、プラスチックのケミカルリサイクルに向けて、イギリスのMuraテクノロジー社とのパートナーシップを発表した。
最初のケミカルリサイクルの工場はイギリスのTeesideに建設予定で、その後ドイツ、5年以内にアメリカでの工場建設も予定している。Muraテクノロジー社は、同社のリリースで 2025年までに世界で100万トンのリサイクル能力を確保する目標を発表している。

Muraテクノロジー社の技術(Hydro PRS™)は、通常の熱分解による油化技術と異なり、超臨界蒸気(超高温高圧蒸気) を使ってプラスチックを熱加水分解するのが特徴である。複合材や多層シートもリサイクルが可能だが、投入はプラスチックのみで、 塩素、フッ素系材料はリサイクルせず事前選別する。

おおよその工程としては、破砕・洗浄した廃プラスチック(最大約 50 ㎜長) と 超臨界蒸気の混合物を触媒チャンバーに入れ、分解後に短鎖炭化水素を取り出す、というものである。触媒チャンバーの分解時間はわずか20分で、超臨界蒸気は企業秘密だが、摂氏270 ~400度、圧力 25MPa 付近のようである。水の水素原子が炭素重合体を分断して短鎖炭化水素を生成する、というメカニズムである。
プラスチックのケミカルリサイクルは設備投資額がネックになっている他、どの程度のスケールで行うかを見極めるのが難しいことが課題であるが、Muraテクノロジー社のHydro PRS™技術は、設備がモジュラー式でスケールアップがしやすいことも大きな特徴である。

Muraテクノロジー社は技術ライセンスを販売する企業で、この技術自体は、オーストラリア・シドニー大学のThomas Maschmeyer教授のグループが研究開発したものである。この技術は 、元々 プラスチックだけでなく、バイオマス原料や廃棄物残渣等の有機物の油化に利用するために開発されたものである。

筆者は2019年に、当時この技術でリサイクル工場を建設予定だったイギリスのReNEW ELP社を訪問取材したことがある。当時はまだ、資金も技術を採用する企業も順調に集まってはいなかった。一方で、シドニー大学のThomas教授はスピンオフで Licella 社を設立し、オーストラリアでパイロットプラントを建設している。オーストラリア政府からは プラスチックやバイオマスの油化事業のために970万豪ドルの資金援助を受け、さらに 2016 年には Esso Ventures と協業、 2017 年にはカナダで1,300 万カナダドルの資金調達をしたが、商業ベースで急拡大するほどの成果を聞くことはほとんどない状況であった。

このような中、サーキュラーエコノミー政策に基づく行動計画や、欧米の多くの国際企業のサステナブル・ロードマップにおいて、製品におけるプラスチックリサイクル材料の使用率を2025年には30%、2030年には比率を50%にまで高めるという目標が相次いで示されていることが、大手企業が新技術を採用する大きな動機となっている。

リサイクル材料の価格がバージン材料よりも高いということを欧州市場は受け入れ始めており、リサイクル材料生産への動機は揃いつつある。
世界最大手の化学会社の1社であるダウ・ケミカル社がプラスチックのケミカルリサイクルのために新技術への投資を決定したことは、象徴的な出来事といえる。

解説
脱炭素やサーキュラーエコノミーに対する企業の姿勢には、欧州とアジアで大きな隔たりがある。特に、企業だけでなく欧米の投資機関が「グリーン」な投資先への投資を2019年頃より急拡大しているということが、上記のような高度なリサイクルへの投資を加速する前提になっている。
特に、AI技術の導入とプラスチックのケミカルリサイクルの遅れは、アジアにとって今後の大きな課題になりかねないであろう。

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