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リチウムイオン電池リサイクルの理想と現実のギャップ

大手市場調査会社である BlueWeave Consulting の最近の調査によれば、リチウムイオン電池(以下、LIB)のリサイクル市場規模は、2022年の推定62億2,000万ドルから、2029年には5倍以上の324億ドル規模になると予測されている。

シンクタンクや市場調査会社による相次ぐ市場拡大の分析、さらに、米国のインフレ削減法、欧州の電池指令によって、材料の調達規制やリサイクル材料利用の促進が重なり、LIBリサイクルのニュースは大きな関心を集め、投資が加速している。しかし、現状利用されている技術の限界、コストの問題、中国以外での未熟な二次材料(リサイクル材料)市場、そして電池材料の変化や化学的な材料特性を本当に考慮した綿密な調査は、行われていない。

上記の調査結果のほとんどは、マクロ的な市場分析と各社の公式発表が情報ソースとなっている。本稿では、LIBのリサイクルにおける技術的な限界、コストの問題、先行する中国からの影響など、本来はバランスよく語られるべきネガティブな点に焦点を当てる。なお、本稿でLIBと記載するものは、リチウムイオン二次電池に限定する。

LIBリサイクルにおける課題

現在、一般的に利用されているLIBには様々な種類があり、正極材の活物質によって種類が分けられている。主に、コバルト系、ニッケル系、NCA(ニッケル/コバルト/アルミニウム)系、マンガン系、リン酸鉄系、三元(ニッケル/マンガン/コバルト)系、チタン系、リチウムポリマー系等がある。

LIBのリサイクルには、廃棄されたLIBの収集運搬工程、分解や放電を含むリサイクルの前処理工程、そしてLIBそのものをリサイクルするための3つの工程がある。

最初に問題となるのは、廃棄LIBを収集し、リサイクル工場に運搬するまでの段階である。

電子機器、モバイル製品、工具、小型の家電製品などには様々な種類の電池が使用されており、また、LIBだけでも多くの種類が利用されている。そのため、製品が廃棄・収集される経路で複数の化学組成を持つ電池が混合状態となる。電池は小型かつ大量に収集されていくため、収集された電池の中に、必ずLIB以外の電池が混ざることとなる。過去に広く利用されてきたニッケルカドミウム電池、マンガン電池、アルカリ電池、鉛電池等が、ほんの数パーセントであっても、LIBの中に混ざることが避けられないのである。

完全にLIBのみを収集する流通経路を、現在の使用済み電池収集経路から独立させる場合、追加のコストが掛かることになる。電池は規格サイズのものであっても、プラスチックのパッケージで覆われている状態では、ラベルを注意深く読み取り種類を特定しないと、実際にどの種類の電池が使用され、さらにLIBの中でもどの種類の電池が利用されているか、瞬時には分からない。LIB以外の種類の電池の混入を完全に防ぐためには、LIB専用の収集運搬システムを構築しなければならないが、それでもLIBの細かい種類までは分けることはできない。

別の種類の電池が混入する際に一番問題となるのが、ニッケルカドミウム電池(カドミウム)と鉛電池(鉛)である。これら2種類の重金属は毒性が強く有害であるため、いずれかのリサイクル段階で除去されなければならない。

収集された廃LIBは、前処理と呼ばれる段階を経て、その後に続く3つのリサイクル工程に送られる。

前処理とは、まず電池パッケージを破砕できる状態にまで分解し、後の工程能力によっては、事前にLIBを放電する工程である。 前処理後に実際にLIBをリサイクルする際の最初の工程は、物理的に破砕・選別して黒色の砂状物質であるブラックマス(以下、BM)と呼ばれる中間材を生成する工程である。

その次に、化学的な溶媒/抽出処理によりBMから金属の化合物を生成する 「湿式製錬」工程があり、そこでは主に硫酸コバルト、硫酸ニッケル、炭酸リチウム等の金属化合物を生成する。乾式の製錬方法も存在するが、主流にはなっていない。

最後に、湿式製錬工程で生成された金属化合物をLIBに使用できる状態まで純度を上げる精製加工工程がある。これは、CAM(Cathode Active Material:カソード活物質)精製工程とも呼ばれている。

現在、世界のLIBリサイクラーのほとんどは前2つのBM生成と湿式製錬工程に投資を集中している。これら2つの工程に対する投資金額は、処理能力により数十億~数百億円が必要なため、年間数万トン単位での使用済みLIBの処理を行わなければ、新規で事業を開始する場合、投資回収を見込むことが困難である。

仮に1ヶ月で5,000トンの使用済みLIBを処理する場合、多くのノートPCやモバイル製品で利用されている標準的な18650サイズ(1個当たり約50g)のLIBならば、1億個が必要である。仮定の話であるが、EVや蓄電装置のような大型LIBパッケージをリサイクルの対象としない限り、膨大な量のLIBをリサイクル工場に集約しなければならない。その分、収集が広域となり、前述のように、運搬コストが増すだけでなく、鉛やニッカド電池が混入する可能性が高まるのである。

新興の湿式製錬LIBリサイクラーは、生成されたBMにカドミウムや鉛を含む不純物成分がある場合には、BMを受入れない場合があるか、BMの価値(価格)を下げて購入する。一方、中国のリサイクラーや、銅/コバルトなどの金属製錬メーカーは、すでに不純物除去の工程を別にもつ所が多く、ある程度の許容範囲の中で不純物が混入したBMを受け入れる所もある。

ただ、問題は不純物だけではない。仮に100%使用済みのLIBのみを収集したとしても、リン酸鉄系のLIB(LFP)と三元系(ニッケル/マンガン/コバルト)のLIBでは、リサイクル後に得られる金属の価値が全く異なる。前者のLFPでは、全リサイクル工程のコストと、リサイクルして得られる金属の価値を比較した場合、多くはリサイクル工程のコストの方が高くなる。従って、リサイクラーは、使用済みのLFPには使用済み電池の排出者に処理料金を請求しなければ事業が成り立たない。一方、三元系のLIBは、使用済みであっても有償で購入することが可能である。しかし、コバルト、マンガン、ニッケルのLIB内の比率やそれらの金属の市場価格によって買取価格が変わるため、常に同じ価格で買い取ることはできない。

使用済み電池の収集過程で、LIBの種類を全て分けて収集するシステムは、現時点では世界中どこにも存在しない。電池を事前選別すればするほど、後工程での処理は容易になるが、事前選別のコストが増えてしまうからである。

このように現実的に解決が困難な問題が存在するため、LIBリサイクルへの投資は、EVに使用されている電池パック、大型蓄電装置、そして、LIB製造工場(電池の製造工場)から排出される工程不良材に焦点を当てるのが主流となっている。

EV電池パックのリサイクルにおける3つの問題点

次に、EV電池パックのリサイクルの問題点をあげる。EVに使用されているLIBは、セル数、電池の化学組成、パッケージの構造など、リサイクルに必要な情報が全て明確なため、単一の種類又は似たような種類で容易に分けることが可能である。1台のEVに使用されるLIBセル数も多く、形状や筐体などが一定のため、リサイクラーにとっては一番リサイクルしやすいLIBの1つといえる。

しかし、ここにも3つの問題がある。

1つ目は、運搬の問題である。 手順に従い認証を受けた方法でEVから取り出した使用済みLIBパッケージでも、現状、運搬時に何段階にも積み上げてトラックで輸送することはできない。多くの国では安全規制により、脱電したLIBパッケージでも、個別になるようなケースに一旦収納して運搬する必要があるからである。しかも、LIB専用のケースやLIBの運搬に特化したトラックはまだ普及していない上に、長距離を移動する場合、運搬コストが大幅に上がってしまう。これはすでに欧州でも問題になりつつある。カナダの大手LIBリサイクル企業は、ハブ&スポークというシステムを構築することでBM製造拠点を多数持ち、その後、数ヶ所の湿式製錬工場に集約するという方法を目論んでいるが、これも初期コストがかさむため、多額の資金が必要となっている。上場した同社の財務諸表は、現業での赤字が続いていることを示している。

2つ目は、前処理の能力である。

前処理工程では、予め規定された安全な方法でLIBパッケージを解体して、セルを数個~数十個重ねられた「モジュール」と呼ばれる小型のパックにまで分解する必要がある。EVのLIBパッケージをモジュールに分解するには、サイズや構造にもよるが、1人の作業員でおよそ30分~1時間程度が必要である。1日にEV50台分以上のLIBパッケージをモジュールにまで分解する場合、安全な保管場所の確保、作業員の人件費など、多くのコスト増要因が存在する。

3つ目は、LIBの化学組成の変化である。

2022年まで、EV用のLIBは、NMC622(カソード材料のニッケルが6割、マンガンが2割、コバルトが2割のもの)や、MNC811(マンガンが8割、ニッケルが1割、コバルトが1割のもの)が 生産の主流であった。欧米では、現在もこの傾向が続いている。 しかし、世界の電池セル生産能力のおよそ77%のシェアを持つ中国では、既にEV用の量産電池として前述のLFPが生産規模を急拡大しており、レアアースに依存しないエネルギー密度の高いLMFP(リン酸マンガン鉄リチウムイオン電池)や、リチウムを利用しないナトリウムイオン電池(NIB)の量産計画が相次いで発表されている。また、自動車大手のステランティスが、米国カリフォルニア州のLyten, Inc.社と技術提携し、ニッケル、コバルト、マンガンに依存しないEV用のリチウム硫黄バッテリーに投資することを発表するなど、5年後には、EV電池の化学組成が大きく進歩する可能性がある。この分野の技術は日進月歩である。歴史的に、あらゆる電池はその用途に見合う最良のものが開発されてきた。LIBは、元々はモバイル機器用電池として開発されたものであるため、自動車用に転用している現在は、EV時代の過渡期における一時的なものなのかもしれない。

 

目まぐるしく変わる電池の化学組成と将来に対応を迫られるリサイクル企業

こうした低価格の金属を利用する電池の登場は、リサイクル事業の計画そのものを変える可能性が高い。湿式製錬で利用する化学薬品も変わり、リサイクル料金を支払わなければ電池のリサイクルコストをまかなうことができなくなる。現在、特に北米のLIBリサイクル企業は、特別目的会社を買収する方法で上場し、かなりの資金を市場から調達しているが、その最大の理由の1つは、リチウム、コバルト、マンガン等の金属について、EVの普及によって供給不足が起こることを前提とした計画によるものである。 欧米資本のLIB製造企業は、中国企業に比べ、FLP、LMFP、NIB等の新しい化学組成の電池の技術開発で遅れている。欧米は、原材料の調達によるEV補助金の規制により、保護貿易的な政策を推進しているが、それらは欧米内だけで利用できるものである。人口が多く経済発展しているインド、南米、中東、アフリカ、東南アジアでは、中国メーカーが安価なEV車の普及を目指しており、自動車業界そのものの構図さえ変えかねない可能性がある。 LIBギガ工場から発生する不良材のリサイクルは、LIBリサイクル企業にとって最も効率の良い投入材料である。金属や化学的な組成が安定しており、投入量もある程度確保できるからである。しかし、現実的には、特に欧州資本のLIBリサイクル企業は壁に直面している。

欧州では、世界で最もグリーンなLIB生産とリサイクルを標榜したスウェーデンの新興LIB企業が3年前に数千億円規模の資金を集め、野心的な計画を発表したが、未だに1セルも量産車に搭載されていない。その後の計画も、発表はあるが、具体的に進んでいない。また、イングランド北部に計画された英国資本のLIBギガ工場計画も、2023年初頭にとん挫し、企業が倒産した。現在は、EV用ではなく、蓄電用のLIBを生産する計画に変更して、オーストラリアのエネルギー企業が受け継いでいる。

さらに、イタリアやスペインで計画されているLIB工場も計画が大幅に遅れている。フランスのトタル・エナジー、自動車大手のステランティスやベンツが出資するLIB工場は、フランス北部で竣工式を終えたばかりで、量産は2025年以降になる。現在、EV用のLIBを欧州域内で量産しているのは、ポーランド、ハンガリー、スロバキア、英国にある、中国、韓国資本のLIBメーカーの工場のみである。彼らは、それぞれの国のリサイクル企業や関連企業とのつながりが強く、欧米資本のLIBリサイクル企業の目論見通りには進んでいない。

最後に上げる最大の問題は、中国のLIBリサイクルの余剰能力問題である。

2021年から急激に上昇したコバルトとリチウムの価格によって、中国ではBMの湿式製錬工程への投資が加速した。その影響もあり、2021年末から、中国企業が世界中でBMの購入を開始した。中国系企業は世界でもいち早く、BM内のリチウムの評価を価格に反映した。リサイクル材の炭酸リチウムや水酸化リチウムの二次製品市場が形成され、評価が可能となったためである。欧米では未だにこの市場がなく、多くのBM製錬工場は、ニッケルとコバルトの評価が中心のままである。 正確なデータは存在しないが、現在、中国では年間およそ100万トン近いBMを処理できる設備能力が存在または進行中と推測されている。中国でのBMの流通量は年間約30万トンと推定されており、湿式製錬工場の余剰生産能力を補うため、中国系のLIBリサイクル企業が東南アジアに進出し、使用済みLIBを集荷しBMを製造する工場に投資し始めている。

中国の影響はそれだけではない。インフレ削減法や欧州の重要な原材料法及び炭素国境調整メカニズムに対応するため、欧米とFTAがあり、マンガン等の鉱物資源が豊富なアフリカのモロッコ(モロッコ王国)に、中国の電池関連企業が進出する動きが顕著になっている。世界最大のLIB負極材メーカーの中国BTR New Materials Group(BTR新素材グループ)は、2023年4月、12億ドルを投じてモロッコに大型電池部材の製造工場を建設することを発表した。この工場の製品は、インフレ削減法でEV補助金に対する保護的な政策を取る米国のテスラ向けが含まれている。BTRは、LIBのリサイクル工場の設置も計画している。さらに、中国の大手LIBメーカーであるGotion High-Techは、2023年5月に、最大100GWhとなる超巨大電池工場をモロッコに建設することを発表した。同工場では、EV用とエネルギー貯蔵システム用の両方の電池を製造する予定である。モロッコは、EUともFTAを結び、ポルトガルまで近い立地条件のため、EU炭素国境調整メカニズムへの対応も可能である。

このように様々な理由から、中国系LIBリサイクル企業のBM購入の価格競争力と湿式製錬能力は、他の市場とは比較にならないほど強い。 また、モロッコは、欧米向けの、中国による電池と電池リサイクルのハブとしての存在感を高めることは確実で、特に欧州の新興LIBリサイクラーは、間違いなく大きな影響を受けるであろう。

解説
LIBリサイクルを商業的に成功させるためには、克服すべきいくつもの課題があり、自社だけでは解決できない問題も多い。LIBの種類の多さ、収集における混入品、それに伴うBM内のコンタミネーションと製錬コストの上昇、将来の電池の化学組成の変化、中国の電池リサイクル企業群の突出した競争力等、代表的なものだけでも、自社内では解決が困難である。 将来の電池技術の進歩による不確定要素や、各国の自動車リサイクル法における生産者責任の拡大もあり、LIBリサイクルの市場予測は、あらゆる可能性を考慮し分析する必要があるのではないだろうか。そしてそれらが考慮された上で行われている分析や調査は、今の所、ほとんどないと思われる。