CDPとは
CDPは最も著名なESG評価制度の1つであり、機関投資家が投資を行う際の有用な情報提供を主な目的として、世界の企業の環境情報開示を促進している。現在、評価に関する質問書には気候変動、水セキュリティ、フォレストの3つの分野があり、気候変動は2002年、水セキュリティは2010年、フォレストは2013年から質問書の送付が開始されている。
質問書への回答内容によって企業を評価する制度となっており、CDP評価の重要性の高まりを背景に、回答企業が年々増加している。
本稿では、CDP2023の水セキュリティ分野、フォレスト分野の概観と、CDP2024の概要について解説する。
〈目次〉
1. CDP2023の概観
1-1. CDP2023(水セキュリティ、フォレスト)におけるAリスト企業数と割合
1-2. CDP2023質問書の構成と主な変更点
1-3. CDP2023 Aリスト基準
1-4. CDP2023配点のポイント
2. CDP2024質問書の概要(気候変動、水セキュリティ、フォレスト共通)
2-1. CDP2024(水セキュリティ)の概要と対象回答企業
2-2. CDP2024(フォレスト)の概要と対象回答企業
1.CDP2023の概観
1-1. CDP2023(水セキュリティ、フォレスト)におけるAリスト企業数と割合
CDP2023には、世界で約23,000社が回答、うち日本企業は2,000社が回答する結果となった。
CDP2023水セキュリティにはグローバルで4,815社が回答し、うち101社がAリストに選出された。日本企業では706社が回答、うち36社がAリストに選出されている。
また、CDP2023フォレストにはグローバルで1,152社が回答し、うち30社がAリストに選出された。日本企業では138社が回答、うち7社がAリストに選出されている。
1-2. CDP2023質問書の構成と主な変更点
<水セキュリティ>
水セキュリティの質問書での質問総数は、約85となっている。構成は表1に記載したとおりである。
質問項目のうち、73%が前年度から変更なし、もしくは軽微な変更に留まった。
また、水への影響が大きいと考えられる一部のセクターの企業に対し、一般的な水データポイントに加え、固有の情報開示が要求される内容となっている。
表1 水セキュリティにおける設問項目と各項目の概要および変更のあった項目
N0. |
大項目 |
概要 |
変更があった項目 |
0 |
はじめに |
会社の概要、報告年、通貨、バウンダリ、除外対象 |
|
1 |
現状 |
水の依存度、水の会計(水のモニタリングの割合、取得量・排水量・消費量、水ストレスの大きい水域での取水量、リサイクル・再生水の割合)、有害物質、バリューチェーンでの協働 |
水会計(W1.2k,W1.4,W1.4a) |
2 |
事業への影響 |
報告年における水による事業への影響、水規則違反により受けた罰則 |
事業への影響(W2.1a,W2.1b) |
3 |
手順 |
水リスクの評価方法の手順・考慮される要素 |
水質汚染の管理手順(W3.1,W3.1a) |
4 |
リスクと機会 |
水リスクのある施設数・内容等、水関連リスクと対応、水によりもたらされる機会 |
リスクと機会への対応策 |
5 |
施設レベルの水会計 |
施設レベルの水に関するデータ |
|
6 |
ガバナンス |
水関連方針、マネジメントの責任、政策への関与と整合 |
水関連に関するガバナンス(W6.1~W6.4a) |
7 |
事業戦略 |
事業計画、設備投資費/操業費、シナリオ分析、ウォータープライシング |
水に影響を与える量が減少している製品/サービス(W7.5) |
8 |
目標 |
水関連目標と達成に向けた進捗 |
水関連の定量目標、策定状況(W8.1,W8.1a~c) |
9 |
検証 |
水情報に関する外部検証 |
データ検証と基準(W9.1,W9.1a) |
10 |
プラスチック製造、販売等の事業での関与について |
|
|
16 |
承認 |
回答の最終承認 |
|
全体の主な変更点は、下記の2点である。
2022質問書では環境課題への統合アプローチとなっていた1の設問項目が、全企業に対して、水質汚染の質問項目へ変更となっている。同設問項目のシナリオ分析に関する質問項目は、事業戦略のカテゴリとして3aへ移行されている。
<フォレスト>
フォレストの質問書での質問総数は約80となっている。構成は表2に記載したとおりである。
質問項目のうち、73%が前年度から変更なし、もしくは軽微な変更に留まった。製紙・林業セクターに関するセクター固有の質問はないが、質問内の回答オプションはセクターに合わせて調整されているほか、石炭および金属・鉱業セクター向けには別の質問項目がセットされた内容となっている。
コモディティに関しては、対象は木材、パーム油、畜牛品、大豆となっており、回答したコモディティに対し、それぞれスコアが付けられる。
※天然ゴム、ココア、コーヒーに関しては回答可能であるが、2023では採点対象外となっている。
表2 フォレストにおける設問項目各項目の概要および評価視点
N0. |
大項目 |
概要/評価視点 |
1 |
現在の状況 |
・回答するコモディティの生産、販売および報告年の自社全体の収益に占める割合 |
2 |
手順 |
・森林関連リスクの特定・評価の仕組みと手順およびその事例 |
3 |
リスクと機会 |
・森林関連リスク・機会の詳細と対応の内容、財務影響とその根拠 |
4 |
ガバナンス |
・取締役会等における森林関連課題の監督体制、責任者とその具体的な役割 |
5 |
事業戦略 |
・長期的な事業戦略への森林関連課題の組込み |
6 |
実践 |
・回答するコモディティの持続可能な生産/消費に係る定量的な目標 |
7 |
検証 |
・回答する森林関連情報の第三者検証 |
8 |
障壁と課題 |
・森林減少や生態系の転換の排除に対する障壁・課題とそれらを管理する方策 |
1-3. CDP2023 Aリスト基準
CDP2023(気候変動、水セキュリティ、フォレスト共通)および水セキュリティ単体、フォレスト単体における2023年のCDP Aリスト基準は、下表3~5のとおりである。
表3 CDP2023(気候変動、水セキュリティ、フォレスト共通)Aリスト基準
N0. |
基準 |
1 |
最低限のリーダーシップポイントを獲得している(プログラムによって異なる) |
2 |
重大な除外項目がない(W0.6a) |
3 |
投資家要請質問書について回答を一般公開している |
4 |
CDPスコアリングチームによるリーダーシップ関連質問のマニュアルチェック |
5 |
評判リスクに関するチェック |
6 |
CDPスコアリング運営委員会の承認を得る |
7 |
金融サービスセクターは、以下の基準(C12.1,C-FS0.7)を満たさなければならない |
8 |
石油・ガス、石炭セクターの会社は、以下の基準を満たさなければならない |
表4 CDP2023 水セキュリティ Aリスト基準
N0. |
基準 |
1 |
自社拠点/施設/事業所の76%以上が下記の側面について定期的に監視されていることを示し、包括的な水会計を実証すること(W1.2) |
2 |
質問W1.2dにて、水ストレスのある地域からの取水量が前年度と比較して少ないか安定的であることを回答(水ストレスのある地域からの取水量を有する回答者のみに適用 |
3 |
質問W1.5にて、水に関する問題について、サプライチェーンとの協働を表明していること |
表5 CDP2023フォレスト Aリスト基準
N0. |
基準 |
1 |
行ごとに商品を選択し。展開するバリューチェーンのステージを開示している(F0.4) |
2 |
自社の土地における自然生態系の転換を監視する(F1.3) |
3 |
全てのコモディティの生産/消費量、全ての森林リスク国について、原産地を報告する(F1.5c) |
4 |
サプライチェーンにおける森林減少。転換のフットプリントを監視または推定する(F1.7) |
5 |
すべての事業/サプライチェーンにおいて、包括的かつ徹底的なリスク評価が実施されていることを示す(F2.1a) |
6 |
森林減少及び/転換なしのコミットメントにリンクした1つ以上のコモディティ固有の目標を持っており、転換なしの順守数量が90%である(f6.1a,F6.4a) |
7 |
森林減少と森林劣化に関するコミットメントに対する行動を取っている(F1.3, F1.7,F4.5,F4.5a,F4.6,F4.6b,F6.1,F6.1a,F6.2,F6.2a,F6.3,F6.4,F6.4a,F6.8,F6.10/F6.11) |
1-4. CDP2023配点のポイント
<水セキュリティ>
全体として、気候変動、フォレスト質問書との整合、また、削除されたリーダーシップ評価基準の評価分を反映させるため、「ガバナンス」カテゴリのウェイトが大幅に下がっている。新カテゴリとして、「水質汚染の管理手順」と「バリューチェーン・エンゲージメント」のカテゴリを新しい質問に合わせ変更しており、それぞれのカテゴリのウェイトを再配分した結果、これらのウェイトが高くなっている。
<フォレスト>
全体として、消費・生産データにウェイトが置かれる傾向にあり、2022質問書と比較して、マネジメントレベルでは7%→9%、リーダーシップレベルでは3%→7%と、配点のウェイトが大きくなった。一方、方針とコミットメント、認証においては配点の比重が下がるという結果となった。
スコアリングの方法に関しては前年度からの変更はなく、既存のカテゴリーに新しい質問が追加された形となっている。
なお、フォレストでAリストに掲載されている企業の傾向としては、ランドスケープ/管轄区域のアプローチを展開し、調達地域全体で多様なパートナーとの森林関連リスクへの対応を促進していることが挙げられる。
2.CDP2024質問書の概要(気候変動、水セキュリティ、フォレスト共通)
現在公表されている、CDP2024質問書の概要として、下記が挙げられる。また、質問書のフローは下図1のとおりである。
・3種類の質問書(気候変動、水セキュリティ、フォレスト)を1つに統合した上で、その他の環境課題が包含された内容となる
・質問書統合の背景としては、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)と生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)による、気候と自然が同時に公平な方法で対処されなければならないことへの合意があり、これには、生態系の保全・保護、復元、持続可能な農業・林業慣行の採用、循環型経済の追求などが含まれる
・相互に関連する課題として、土地利用、生物多様性、プラスチックを含む生態系全体への依存と影響、リスク・機会の評価・管理を奨励
・欧州やインドで義務的開示が開始される中、関連するフレームワークや基準との整合性を強化
図1 CDP2024質問書フロー
また、CDPが整合をめざす、関連するフレームワークや基準としては、以下が挙げられる。
・ISSB(国際サステナビリティ基準委員会)のIFRS S2気候基準
・TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)やESRS(European SustainabilityReporting Standards)など、他の枠組み・基準
2-1.CDP2024(水セキュリティ)の概要と回答対象企業
・TNFDガイダンスに沿って、優先的なロケーションの特定が求められる
・質問書は1つであるが、採点は水セキュリティ別の採点となる
・プラスチックと生物多様性は採点対象外となる
・過去に水セキュリティへの回答を求められている企業は、CDP企業アンケートの一環として、再度提示される可能性が高い
・プラスチックに関しては、中小企業と公的機関を除くすべての開示企業に対して基本的なデータポイントが提示される予定となっている
・プラスチックの影響が大きいセクターには、より幅広い質問が提示される可能性がある。
<CDP2024(水セキュリティ) 対象回答企業>
水セキュリティとフォレストは引き続き企業活動に応じて要請予定となっている。
上段で記載したとおり、過去に回答した企業のほか、企業が水に関する依存、影響、リスク、機会(=DIRO)を特定したかどうかを回答することができ、「はい」とした場合、水セキュリティに関する質問が表示されるようになる。
CDP2024(水セキュリティ)に回答する企業の決定方法は、下記のとおりである。
以下のいずれかに該当する企業(中小企業は2、4のみ):
1.CDPの水産業影響分類に該当する企業
a.投資家要請の質問書を送付する対象企業の抽出プロセス
b.投資家から要請されていない企業向けの質問書への回答に参加する企業
2.要請者(例:サプライチェーンメンバー等)から水セキュリティ回答の要請があった企業
3.自己評価:水セキュリティに関するDIROを特定している企業
4.水セキュリティ回答にオプトインした企業
2-2.CDP2024(フォレスト)の概要
・従来通り、森林と森林減少に焦点を当てる一方で、その他の自然生態系の転換がより重視される
・単一の「フォレスト」としての得点へ移行する
・森林減少と転換フリー(DCF)の量、DCF達成の方法、およびその進展に関する報告が強化される
図2 CDP2024(フォレスト)概要図
<CDP2024(フォレスト) 対象回答企業>
CDP2024(フォレスト)に回答する企業の決定方法は、下記のとおりである。
以下のいずれかに該当する企業(中小企業は2、4のみ):
1.CDPの森林産業影響分類に該当する企業
a.投資家要請の質問書を送付する対象企業の抽出プロセス
b.投資家から要請されていない企業向けの質問書への回答に参加する企業
2.要請者(例:サプライチェーンメンバー等)からフォレスト回答の要請があった企業
3.自己評価: 森林に関連するDIROを特定している企業
4.フォレスト回答にオプトインした企業
なお、CDP2024質問書のオープンは2024年4月、回答時期は2024年6月~9月に予定されている。
より詳細な情報に関しては、今後提供予定である。
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