GCP の概要
GCP(グローバル循環プロトコル)は、サーキュラーエコノミーへの移行を加速するために策定された、企業向けの循環性測定・管理・開示の統一フレームワークである。150名以上の専門家と80以上の組織が開発に参加し、2025年11月11日にCOP30で初版v1.0として公開された。
本フレームワークの核心は2点ある。第一に、GHGプロトコル(温室効果ガス排出量の測定・報告の国際基準)の考え方を「材料フロー(材料の流れ)」に応用したABCDスコープモデルである。第二に、Frame(目的設定)からCommunicate(開示・報告)までの5ステップのプロセス設計である。
特筆すべき点として、GCPはGRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)やESRS(欧州サステナビリティ報告基準)、IFRS S1/S2など既存の主要報告基準との相互運用性を備えており、既存の開示体制に組み込みやすい設計となっている。日本では環境省が2024年にWBCSDとMOU(協力覚書)を締結し、国内の主要製造業がパイロット参加するなど、国内での関心も急速に高まっている。
背景・現状:なぜ今GCP が必要か
サーキュラーエコノミーの国際的な潮流
地球規模での資源枯渇・廃棄物問題・気候変動への対応として、「使い捨て型(リニア)」から「循環型(サーキュラー)」への経済移行が国際的に求められている。欧州連合(EU)は2020年に『サーキュラーエコノミー行動計画』を策定し、製品設計から廃棄物管理まで広範な規制整備を進めている。
こうした動きの中で、企業は自社の循環性を定量的に示す必要性に迫られている。しかし、GCP登場以前はサーキュラーエコノミーに特化した国際共通の測定・開示の枠組みが存在しておらず、各社が独自の指標を用いるために比較可能性が確保できないという課題があった。ネット・ゼロやネイチャーポジティブとは異なり、サーキュラーエコノミーについては指標を含めた評価手法・開示の枠組みが国際的に未確立だった点が、実務上の障壁になっていたといえる。
GCP が生まれた経緯
GCPの概念は2022年のストックホルム+50サミット(国連主催の環境会議)で提言された。その後、WBCSDとOne Planet Network(UNEP主催の持続可能な消費・生産に関するネットワーク)が共同で開発をリードし、政府機関・企業・NGO等80以上の組織と150名以上の専門家が策定に参加した。
日本の環境省は2024年2月にWBCSDとGCP開発に関するMOUを締結し、国際ルール形成の初期段階から関与している。これはTCFDやTNFDの議論に出遅れた反省を踏まえた積極的な関与だといえる。そして2025年11月11日、COP30にて初版(v1.0)が世界に向けて正式発表された。
GCP フレームワーク構造:5ステップとABCDスコープモデル
5ステップのプロセス
GCPは以下の5ステップで構成されており、企業が自社の状況に応じて段階的に取り組める設計となっている。
- Frame(目的設定):GCPを適用する目的・ユースケースを定義し、対象とする製品・材料・事業単位を選択する。
- Prepare(評価準備):バリューチェーン(原材料調達から廃棄・再利用までの一連の流れ)をマッピングし、測定の境界と使用する指標を設定する。
- Measure(測定):標準化された指標と方法論を用いて、材料フローと循環性を定量的に評価する。
- Manage(管理・改善):測定結果を踏まえた循環型ビジネスモデルへの移行戦略を立案・実行する。
- Communicate(開示・報告):比較可能かつ意思決定に有用な形式で、ステークホルダー(投資家・顧客・規制当局等)に向けて結果を開示する。
重要なのは、GCPが単一の年次スコアを算出するためのツールではなく、企業の継続的な意思決定と改善を支援するための評価ツールとして設計されている点である。

(ブライトイノベーションにて作成)
ABCDスコープモデル
GCPの測定フレームワークの中核をなすのが、ABCDスコープモデルである。これはGHGプロトコルのScope 1〜3(自社の直接排出から、サプライチェーン全体の間接排出まで段階的に把握する概念)を「材料フロー」に応用したものである。
- スコープA・B:自社の直接管理下にある材料フロー(自社内の製造工程等)
- スコープC・D:自社外のバリューチェーン全体にわたる材料フロー(原材料調達先・製品使用後の回収・リサイクル等)
また、GCPは4つのモジュールで構成されており、モジュール1・2が材料フローに関する循環性指標の評価、モジュール3・4が循環化による価値創出・環境・社会インパクトの評価を担う。
既存基準との相互運用性
GCPは既存の主要な報告・開示基準との相互運用性を重視して設計されている。すでにこれらの基準に対応している企業にとっては、GCPへの対応コストを最小化できる点がメリットとなる。
| 基準名 | 概要 | GCPとの関係 |
|---|---|---|
| GRI 301(材料) | グローバル・レポーティング・イニシアティブの材料使用に関する開示基準 | 材料指標の整合・相互参照が可能 |
| GHGプロトコル | 温室効果ガス排出量の測定・報告の国際基準 | ABCDスコープモデルの概念的基盤 |
| ESRS(欧州サステナビリティ報告基準) | EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD)に基づく報告基準 | 欧州規制対応との整合が可能 |
| ISO サーキュラーエコノミー規格 | ISO/TC 323によるサーキュラーエコノミーの国際標準規格群 | 用語・定義の整合 |
| IFRS S1/S2 | 国際財務報告基準のサステナビリティ開示基準 | 財務情報との統合開示に対応 |
企業へのGCP 導入プロセスと活用メリット
導入の実務的なポイント
GCPの導入に際して、まず重要なのはFrame(目的設定)の段階で「何のためにGCPを使うのか」を明確にすることである。開示目的(投資家向けESG報告など)なのか、業務改善目的(材料コスト削減など)なのかによって、測定の優先順位と境界の設定が変わる。
測定対象は材料(Material)・製品(Product)・コーポレート(Corporate)の3レベルで柔軟に設定できる。初めて取り組む企業は特定の製品ラインや材料カテゴリから始め、段階的にスコープを広げていくアプローチが実務上は現実的である。
企業が得られる主なメリット
- コスト削減:材料フローの可視化により、材料効率の改善ポイントが特定でき、廃棄物削減・再利用促進によるコスト低減が期待できる。
- リスク低減:グローバル・サプライチェーン全体の材料トレーサビリティ(追跡可能性)が向上し、原材料供給の途絶や規制リスクへの対応力が強化される。
- 投資家・顧客からの信頼獲得:比較可能な循環性データを「投資グレード」の非財務情報として開示できるようになる。ESG投資の観点から循環性への関心が高まる中、先行対応は競争優位につながる。
- 規制対応の先手:TCFD・TNFDに次ぐ「第3の非財務開示の柱」として、将来的な義務化に備えた体制整備ができる。特に欧州規制(ESRS)との整合性が高く、グローバルビジネスを展開する企業には不可欠な対応といえる。
- イノベーション機会の創出:循環型ビジネスモデル(製品のサービス化・リースモデル・リサイクル素材の活用等)への転換を促す戦略立案の基盤となる。
潜在的インパクト試算

(ブライトイノベーションにて作成)
WBCSDとOne Planet Networkが複数の研究機関・専門家と共同で行ったインパクト分析によると、GCPの普及によって2026年〜2050年にかけて以下の規模の効果が見込まれるとされている。
GHG削減量(累計67〜76 GtCO₂eq)は、現在の米国年間排出量の約12倍、中国年間排出量の約5倍に相当すると試算されている(WBCSD, 2025年)。
| 分野 | 試算値 | 補足 |
|---|---|---|
| 材料消費削減(累計) | 1,000〜1,200億トン | 現在の世界の年間材料消費量に相当 |
| 材料消費削減率(年間) | 4〜5% | 2026〜2050年の累計削減効果 |
| GHG排出削減(累計) | 67〜76 GtCO₂eq | 現在の世界年間GHG排出量の約1.3〜1.5倍 |
| GHG排出削減率(年間) | 6〜7% | 2026〜2050年の年間削減効果 |
| PM2.5大気汚染削減率(年間) | 11〜12% | 2026〜2050年の期間平均 |
| 耕作地占有の削減(2050年まで) | 最大2.9% | 土地利用効率化による効果 |
これらはあくまでGCPが世界規模で普及した場合の試算値だが、サーキュラーエコノミーへの移行がいかに大きなインパクトをもたらし得るかを示す数字として重要である。GCPはその移行を測定・管理・開示する共通言語として機能することが期待されている。
国内外の動向と日本企業への示唆
環境省の対応と日本企業の参加状況
日本では環境省が2024年2月にWBCSDとGCP開発に関するMOUを締結し、国際ルール形成に公式参画している。COP30のジャパンパビリオンではGCP発表セミナーを共催するなど、積極的な関与姿勢を見せている。
GCPの技術作業部会には、自動車・電機・電池分野の日本の主要製造業各社が参加している。製造業の強みを持つ日本企業がグローバルなサーキュラーエコノミーの標準策定に関与している点は、今後のルール形成において重要な意味を持つ。
また、テクノロジーパートナーのCircularise社(デジタルトレーサビリティ企業)はCOP30でGCPの主要パートナーとして発表され、2025年12月の東京イベント(Tokyo Connect)では経済産業省や国内主要製造業各社と連携し、デジタル技術を活用した循環性データ整備を推進している。
GCPはまだ初版段階であり、フレームワークの改訂・精緻化のプロセスが今後も続く。前述の主要製造業各社のように早期からパイロット参加し標準策定に関与することで、自社に有利な指標設計やデータ収集方法が採用される可能性がある。国際標準の形成段階への参加は、のちの適合コストを下げる効果もあり、日本企業にとって戦略的な意味を持つ。
日本企業が抱える課題
欧州を中心に資源循環に関する情報開示規制が着実に整備されつつある中、日本企業も対応を迫られている。特に以下の3点が課題として挙げられる。
- サプライチェーン全体の材料トレーサビリティ整備が急務:GCPのスコープC・Dに相当するバリューチェーン全体の材料フロー把握には、サプライヤーとのデータ連携が不可欠である。
- 対応のリソース確保:TCFDやTNFDへの対応でリソースが逼迫している中で、第3の開示フレームワークへの対応を同時に進める体制整備が求められる。
- 欧州規制への間接的な波及:ESRS(EU企業が対象の報告基準)はGCPとの整合性が高いため、EU拠点を持つ日本企業や欧州企業のサプライヤーである日本企業は、GCPへの対応が事実上求められる可能性がある。
自発的フレームワークから義務化へのシナリオ
GCPは現時点では自発的フレームワークとして発足しているが、TCFDがFSB(金融安定理事会)による推奨を経て事実上の標準となったように、GCPも欧州規制(ESRS等)との整合が深まることで義務化圧力が高まる可能性がある。日本でも循環性を「第3の非財務開示の柱」として捉える議論が始まっており、早期対応のメリットは大きいと考えられる。
気候変動における炭素会計(カーボンアカウンティング)が企業行動を変えたように、GCPによる循環性の会計化は材料使用・廃棄物管理・製品設計の意思決定を根本から変える可能性がある。循環型ビジネスモデルへの投資は、材料コスト削減・廃棄物処理コスト低減・資源リスクヘッジとして財務的なリターンをもたらす点も見逃せない。GCPは単なるコスト負担ではなく、そのリターンを投資家や経営層に対して定量的に示す、投資対効果の可視化ツールとして機能し得る。
GCP まとめ:次のアクション
GCPは、企業の循環性を測定・管理・開示するための世界初のグローバル統一フレームワークとして、2025年11月にCOP30で正式発表された。GHGプロトコルになぞらえたABCDスコープモデルと5ステップのプロセス設計を持ち、既存の主要開示基準(GRI・ESRS・IFRS等)との相互運用性を確保している。
気候変動のTCFD、自然資本のTNFDに続く「第3の非財務開示の柱」として注目されるGCPは、現時点では自発的フレームワークだが、欧州規制との整合性の高さから、将来的な義務化圧力が高まる可能性がある。日本では環境省が開発段階からMOUを締結して関与しており、国内の主要製造業各社がパイロット参加している。企業は今のうちからサプライチェーン全体の材料トレーサビリティ整備に着手することが実務上の急務といえる。
GCP v1.0は2025年11月に発表されたばかりのフレームワークである。現時点では導入企業の実績データや、実際の開示事例が限られている。インパクト試算値(材料削減・GHG削減等)はWBCSDによるシナリオ分析に基づく推計値であり、実際の効果はGCPの普及度合いや企業の実行力によって大きく変わる点に留意が必要である。また、各国・各業種での適用指針(セクター別補足等)は今後の改訂版で整備される見込みである。
今後の対応としては、次のようなアクションが考えられる。
- GCP v1.0ドキュメントの精読:WBCSDが公開する公式ドキュメントを入手し、自社事業への適用可能性を確認する。
- 自社の材料フロー可視化の着手:GCPのPrepare(評価準備)ステップとして、主要製品・材料カテゴリのバリューチェーンマッピングを試験的に実施する。
- 既存開示との統合検討:TCFDやGHGプロトコル対応で収集済みのデータをGCPの測定に活用できるか整理する。
- 業界団体・サプライヤーとの情報共有:GCPはサプライチェーン全体のデータが必要なため、主要サプライヤーへの早期周知と協力体制の構築を検討する。
- テクノロジーパートナーとの接点確保:デジタルトレーサビリティを活用した循環性データ整備の効率化に向けた情報収集を行う。
参考資料
- WBCSD and One Planet Network announce launch of the GCP at COP30 | WBCSD
- Global Circularity Protocol (GCP) for Business | WBCSD
- Global Circularity Initiative Set to Deliver 100 Billion Tons of Material Savings | WBCSD
- Global Circularity Protocol for Business Impact Analysis | WBCSD
- Global Circularity Initiative – 100 Billion Tons | One Planet Network
- 「ビジネスのためのグローバル循環プロトコル(GCP)」の初版の公表について | 環境省
- WBCSDとのGCP協力について | 環境省
- グローバル循環プロトコルの概要と国際ルール形成(環境省・吉田諭史)[PDF]
- Launching GCP — Impact on Climate, Nature & Equity | IGES