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循環経済法(CEA)とは何か:EU初の包括規制がもたらす日本企業への影響

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欧州委員会は2025年8月1日から11月6日にかけて、循環経済法(Circular Economy Act、以下CEA)の起草に向けた意見募集と公開協議を実施し、2026年の提案・採択を目指して準備を進めている。CEAは二次原材料の域内単一市場を形成するとともに、欧州で販売する製品への再生材の使用を義務付けることで、EUの循環利用率を2030年までに倍増させることを掲げており、EU市場に製品を上市・輸入する日本企業にも直接的な影響が及ぶ、域外適用的な性質を持つ。本稿では、CEAの位置づけや立法スケジュール、主要な柱、関連制度群との関係を整理し、日本企業が今取るべき実務対応を解説する。
なお、CEAは本稿執筆時点で提案前の段階にある。柱として語られる施策や数値目標の多くは、欧州委員会の意向表明・協議文書・欧州議会EPRS(European Parliamentary Reserch Service、以下EPRS)のブリーフィング等に基づく「見込み」であり、最終規則で対象範囲や条文が変更される可能性が残る。以下の記述はこの流動性を前提としたものである。

サーキュラーエコノミーが「産業政策」として位置づけられる背景

CEAは、サーキュラーエコノミーを環境政策の枠組みではなく、産業競争力・経済安全保障・レジリエンスを高める手段として明確に設計している。欧州委員会は、CEAの目的を「サーキュラーエコノミーへの移行を加速し、EUの経済安全保障やレジリエンス、競争力、脱炭素化を高めること」と表明している。

この位置づけの背景には、EUが2025年2月に採択したクリーン産業ディール(Clean Industrial Deal)がある。CEAはその一環として、域内で高品質な再生材の供給を増やし、その需要を刺激すると同時に、第三国からのバージン原材料や輸入への戦略的依存を減らす中核ツールとされている。資源を調達し続けるコストを、域内での循環によって構造的に引き下げる発想である。

環境負荷の低減という従来の動機に加えて、資源の安定確保という地政学的な動機が前面に出ている。日本企業がCEAの本質を読み違えないためには、規制順守だけの問題ではなく、EUの産業戦略そのものと連動した制度として捉えることが求められる。

立法スケジュールはどこまで進んでいるのか

CEAは提案前の段階にあるものの、立法プロセスは着実に動いている。時系列で整理すると下記のとおりである。

時期動き
2025年2月26日クリーン産業ディール採択(CEAの上位枠組み)
2025年8月1日意見募集・公開協議 開始
2025年11月6日意見募集 締切
2026年内(採択見込み)影響評価を経てCEA提案・採択(提案前のため確定ではない)

意見募集にはNGOや企業、業界団体に加え、第三国の貿易相手も対象に含まれ、欧州委員会の「Have Your Say」ポータルを通じて意見が提出された。今後は影響評価を経て条文化が進む見通しであり、欧州委員会は2026年内の採択を見込んでいる。提案時期について一部で四半期単位の観測も見られるが、公式の基準はあくまで「2026年内の採択」であり、それより細かい時期の断定は避けるのが妥当である。

意見募集から提案までの空白期間は、日本企業にとって単なる待機期間ではない。制度設計に影響を与えうる論点が精緻化されていく局面であり、EUの動向を継続的にモニタリングする価値が最も高い時期といえる。

CEAは何を変えようとしているのか

CEAは、二次原材料の単一市場化と製品への再生材使用の義務化を軸に、EUの循環利用率を2030年までに倍増させることを狙っている。提案前ゆえ細部は流動的だが、これまでに示された主要な柱と数値目標は以下のように整理できる。

指標・論点現状目標・見込み
EUの循環利用率約12%(2023年)
(2010年は約10.7%でほぼ横ばい)
2030年までに倍増し約24%
二次原材料(再生材)の流通27加盟国で規制が分断域内単一市場化+製品への再生材使用の義務化
サーキュラーエコノミー関連の雇用約440万人(2023年)
(2014年比約+10%)

(新規創出目標ではない)

二次原材料の単一市場の創設

CEAの中核は、27加盟国でばらばらに運用されてきた二次原材料(再生材)に関するルールを調和し、域内単一市場を形成することにある。廃棄物終了基準や分類基準の統一を通じて、各国の規制分断が阻んできた再生材の域内流通を円滑化し、高品質再生材の供給増と需要刺激の両立を目指している。

循環利用率の倍増(約12%→24%)

欧州委員会は、EUの循環利用率を2030年までに倍増させる方針を公式に表明している。欧州議会EPRSのブリーフィングは、倍増後の水準を24%として整理している。EUの循環利用率は2010年の約10.7%から2023年でも約12%と、ほぼ横ばいで推移してきた。この停滞を倍増させる目標であり、達成には制度的な後押しを要するとの認識が、CEA推進の背景にある。目標達成の実現手段としては、欧州で販売される製品への再生材使用を義務付ける方向性が想定されており、努力目標ではなく規制的な仕組みとして循環利用率の底上げを図る点が特徴である。
なお、この24%は全素材平均であり、素材によって現状の循環利用率にはばらつきがある。Eurostat(欧州連合統計局)の直近データでは、金属鉱石が約23%と平均を大きく上回る一方、化石エネルギー由来の素材は数%程度にとどまるなど、達成の難易度は分野ごとに異なる。

修理・耐久設計、包装、EPR、公共調達

このほか、EPRSブリーフィング等では下記の柱が示されている。これらの柱は相互に連関しており、再生材の供給(単一市場)と需要(公共調達・設計要件)の双方から循環を後押しする設計思想が読み取れる。なお、サーキュラーエコノミーに関連するEUの雇用は、2014年から2023年にかけて約10%増加し、2023年時点で約440万人に達したとされる。この数字はCEAによる新規創出目標ではなく現状の実績値であり、制度の経済的裾野の広さを示す指標として理解すべきものである。

  • 修理可能性・耐久性・再利用を前提とした製品設計(エコデザイン)の促進
  • 包装分野を優先分野として重点的に扱うこと
  • 加盟国ごとに分断された拡大生産者責任(EPR)制度の調和・簡素化
  • 公共調達における循環製品・再生材の優遇
EUの循環経済法(CEA)が目指す二次原材料の供給拡大と製品への再生材使用義務化などの需要創出の仕組み、および2030年までの循環利用率倍増目標と雇用インパクトを示した構造図
図:循環経済法(CEA)における供給・需要の構造改革と数値目標
(ブライトイノベーションにて作成)

日本企業にとってCEAの何が論点になるのか

CEAは「EU市場に製品を上市・輸入する事業者」に広く適用される見込みであり、EU域外の日本企業にも影響が及ぶ域外適用的な性質を持つと見られている。ここで実務上重要なのは、CEAを単独の規制として捉えないことである。
CEAは、既存のサーキュラーエコノミー関連規制群を束ねる横断的かつ上位の枠組みとして機能する見通しにある。日本企業が一体で把握すべき主な関連制度は次のとおりである。

制度主な内容主なタイミング
ESPR(エコデザイン規則)製品ライフサイクル全体の環境負荷低減、DPPの基盤2024年7月18日発効
PPWR(包装・包装廃棄物規則)物質要件・PFAS制限など、段階的に要件追加2026年8月12日適用開始
CRMA(重要原材料法)重要鉱物・戦略材料の安定供給確保、二次原材料と接続2024年5月23日発効
EUバッテリー規則DPPの先行事例、産業用・EV用バッテリーへ適用2023年施行/2027年適用予定
※用語について:「発効」は規則がEU法として正式に効力を持ち始める時点を指す。「適用開始」は、発効後に事業者が実際にその規定の遵守を求められる時点であり、猶予期間を挟んで発効より後になることが多い。本稿では「施行」を「発効」とほぼ同義で用いている。

このうちPPWRについては、欧州委員会が2026年8月12日からの適用開始を公表しており、物質要件やPFAS(有機フッ素化合物)制限などが初期要件として動き出す。日本企業にとっては、CEAの提案を待つまでもなく、包装分野で足元の対応が求められる局面に入っている。

サプライチェーンへの波及も見逃せない。再生材の使用義務・調達要件、DPP(デジタル製品パスポート)による情報開示、EPR負担といった要素は、直接の上市事業者だけでなく、サプライヤー階層をさかのぼって上流の日本企業にも伝播する構造にある。EUに完成品を出していない部素材メーカーであっても、取引先を通じて要求が及びうる点を織り込んでおく必要がある。

日本企業に求められること

CEAが提案前で流動的である以上、過度な先取り投資はリスクを伴う。一方で、関連制度群はすでに動いており、準備を怠れば適用開始時に後手に回る。守りと備えのバランスを取りながら、次の対応を進めることが現実的である。

  1. EU動向のモニタリング:意見募集の結果、影響評価、2026年見込みの提案条文の公表を継続的にウォッチする
  2. 関連制度の棚卸し:CEA単独ではなくESPR・PPWR・CRMA・バッテリー規則等を一体で捉え、自社製品・包装がどの要件に該当するかをマッピングする
  3. マテリアルフローの可視化:再生材使用率・廃棄物・リサイクル可能性などのデータを整備し、DPP対応(トレーサビリティ)の前提を固める
  4. 調達戦略への織り込み:二次原材料の調達・確保を調達戦略に組み込み、単一市場化で生まれる再生材市場を見据えたソーシングを設計する。特に、調達先が提供する再生材について、純度・有害物質の不含有・リサイクル由来であることを第三者が認定する仕組みを満たしているかの確認が求められる見込みである。スクラップ(金属くず)を含む再生材を調達する場合は、素材の出所・組成・リサイクルプロセスに関する証明書の提出を取引先に求め、自社側でも確認・記録・管理する体制を整備しておくことが望ましい。証明書に求められる具体的な記載事項(素材の出所、化学組成・純度、有害物質の不含有、リサイクルプロセスの詳細、再生材比率の計算根拠等)は、CEA法案の確定後に明らかになる見込みである
  5. 製品設計の前倒し:修理可能性・耐久性・再利用/リサイクル設計を製品開発プロセスに早期に反映する。再生材比率を高めるための設計変更や、再生材サプライヤーの新規開拓についても、この段階から着手しておく価値がある

これらは規制対応という守りの側面が強いが、視点を変えれば、循環モデル(再生材ビジネス、修理・再製造サービス等)を競争力とレジリエンスの源泉として事業戦略に統合する契機でもある。CEAが循環を産業政策として位置づけている以上、対応する企業側も、循環をコストではなく戦略資産として設計する発想が求められる。

まとめ

CEAは、サーキュラーエコノミーをテーマとするEU初の包括規制であり、2026年内の採択を見込んで準備が進んでいる。その本質は、循環を環境政策ではなく産業競争力や経済安全保障、レジリエンスの手段として設計した点にあり、二次原材料の単一市場創設と、循環利用率を2030年までに約12%から24%へ倍増させる目標がその中核をなす。ただし提案前の段階にあるため、対象範囲や条文は今後変わりうる。この不確実性を前提に動向を追うことが第一歩である。

日本企業にとってCEAは、ESPR・PPWR・CRMA・バッテリー規則といった既存制度群を束ねる横断的な枠組みとして捉えるべきものである。特にPPWRは2026年8月12日に適用が始まっており、待ちの姿勢は適さない。EU動向のモニタリング、関連制度の棚卸し、マテリアルフローの可視化、再生材調達戦略、エコデザインの前倒しを着実に進めつつ、循環を守りのコンプライアンスから攻めの競争力へと転換していくことが、これからの企業に求められる姿勢といえる。

ブライトイノベーションでは、規制動向モニタリングから、再生材調達や回収スキームの構築、さらには循環型ビジネスモデルへの転換ロードマップ策定まで、幅広くサーキュラーエコノミーのコンサルティング支援を提供している。CEAや関連規制への具体的な対応方針を整理したい場合や、自社の資源循環に向けたロードマップを描く際は、お気軽にご相談いただきたい。

【参考資料】

この記事の監修者

江戸 義和
コンサルタント
江戸 義和 Yoshikazu Edo
リサイクル会社や廃棄物管理会社にて環境ソリューション事業開発に従事後、ブライトイノベーションに参画。主にサーキュラーエコノミーモデル構築、広域認定制度取得支援などを担当。
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