この記事の要点
実務に関連する2つのCOP:条約の最高意思決定機関であるCOPのうち、企業の経営戦略に影響を与える枠組みとして気候変動枠組条約と生物多様性条約が存在する。
目標設定と評価尺度の相違点:気候変動COPが温室効果ガス排出量を共通尺度とする一方、生物多様性COPは地域や生態系ごとの複数指標を用いて進捗を点検する構造を持つ。
国内制度と開示基準への波及:COPの決定事項は、GX推進法に基づく排出量取引制度やSSBJ基準、TNFDなどの制度設計へ落とし込まれ、企業の戦略立案に直結する。
サステナビリティ開示の全体体系は『サステナビリティ開示の戦略的意義』を参照されたい。
COP(締約国会議)の概要と2つの国際条約
COP(Conference of the Parties, 締約国会議の略)は国際条約ごとに開催される。企業のサステナビリティ実務に関連する、気候変動枠組条約(UNFCCC)と生物多様性条約(CBD)の2つの主要条約の概要と、その基本的な立ち位置を整理する。
2つのCOPの成り立ちと条約との関係
気候変動枠組条約と生物多様性条約に基づくCOPは、気候変動COP、生物多様性COPと通称されている。この2つの国際条約は、いずれも1992年のリオ地球サミットを機に採択された国際的な取り決めである。条約には達成すべき目的と各国が従う基本原則を定めており、詳細は各COPにて決定される。COPは内容の具体化と実施状況の検討を行う、条約の最高意思決定機関にあたる。
過去に開催された主要な気候変動COPと生物多様性COPについて以下の図にてまとめている。

(ブライトイノベーションにて作成)
気候変動枠組条約と気候変動COP
気候変動枠組条約の目的は、大気中の温室効果ガス濃度を、気候に危険な影響を及ぼさない水準で安定化させることである。締約国は198の国と地域で、2026年10月時点でほぼ全ての国連加盟国が参加している。なお、米国は2026年2月に脱退を通告しており、2027年2月から効力が生じる。
気候変動COPで議論された主要な論点としては、まず1997年に京都で開催されたCOP3で採択された京都議定書がある。京都議定書は、先進国に排出削減の数値目標を割り当て、排出量取引などの市場メカニズムを国際制度として位置付けた。ただし義務を負う国が限られ、世界全体の排出を抑える仕組みとしては課題が残った。
2015年のCOP21で採択されたパリ協定ではこの構造を転換した。先進国と途上国の区別なく、全ての締約国が自ら温室効果ガスの排出削減目標を定めて提出し、定期的に見直す方式である。この目標はNDC(国が決定する貢献)と呼ばれている。
その後、気候変動COPはパリ協定の運用サイクルを回す場として機能している。各国は5年ごとにNDCを更新し、隔年透明性報告書(BTR)で2年ごとに進捗を報告する。これらをふまえた5年ごとのグローバル・ストックテイク(GST)は、初回の結論が2023年にドバイで開催されたCOP28で採択された。2025年11月にブラジル・ベレンで開催されたCOP30では、2035年までに適応資金を3倍にすることを呼びかける決定が採択された。次回のCOP31は2026年11月、トルコ・アンタルヤで開催予定であり、各国によるNDCの実施加速や、これまでのGSTの結果を具体的な政策や投資に反映することなどが主要な議題となる見込みである。

(ブライトイノベーションにて作成)
生物多様性条約と生物多様性COP
生物多様性条約の目的は、生物多様性の保全、その構成要素の持続可能な利用、遺伝資源の利用から生じる利益の公正で衡平な配分である。締約国は196の国と地域だが、米国は署名にとどまり締約国として参加していない。生物多様性条約についての詳しい情報は『生物多様性条約(CBD)とは:企業担当者が押さえるべき基礎知識』を参照されたい。
2010年に名古屋で開催されたCOP10で採択された愛知目標は2020年を期限としたが、20の目標のうち完全に達成されたものはなかった。各国が定めた国別目標の水準が、世界目標の達成に必要な内容と整合していなかったことが要因とされる。その反省をふまえ、2022年のCOP15で採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組では、共通の指標と進捗を点検するグローバルレビューの仕組みがあわせて整えられた。
2024年コロンビア・カリで開催されたCOP16では、枠組みの実施体制と保全資金の確保(資源動員)が主要論点となった。生物由来の遺伝情報の利用から生じる利益を配分する基金の設立などが決まった一方、資源動員は決着せず、2025年2月の再開会合で資源動員戦略が採択された。そして2026年10月にアルメニア・エレバンで開催されたCOP17では、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施状況を初めて世界的にレビューし、2030年に向けた優先行動を示す『エレバン・パスウェイ』が採択された。
気候変動と生物多様性、2つのCOPの主な相違点
2つのCOPは、扱う環境課題が異なるだけでなく、開催頻度、目標の立て方、進捗の測り方にも違いがある。本章では、実務で整理しておきたい比較視点として、COPの進め方と決定事項を解説する。
開催頻度・進捗の測り方・主要アジェンダの違い
気候変動COPは原則として毎年、生物多様性COPは2年に1回の開催である。開催頻度のほか、進捗の測り方にも差がある。気候変動は温室効果ガス排出量という共通の尺度で進捗を測定できるのに対し、生物多様性は遺伝子・種・生態系という複数の階層で構成され、状況も地域ごとに大きく異なる。単一の指標に集約しにくく、何をどう測るかという指標の設計から議論が必要となる。
アジェンダの性質にも違いがある。気候変動COPでは、NDCの野心、緩和、適応、気候資金、技術移転が主要論点となる。生物多様性COPでは、昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施状況、資源動員、遺伝資源の利益配分が中心となる。
以下に2つのCOPの相違点をまとめる。
| 比較項目 | 気候変動COP | 生物多様性COP |
|---|---|---|
| 開催頻度 | 1年に1回 | 2年に1回 |
| 進捗測定における尺度 | 温室効果ガス排出量 | 複数の指標を組み合わせて測定 |
| アジェンダ | NDCの野心、緩和、適応、気候資金、技術移転 | 昆明・モントリオール生物多様性枠組の実施状況、資源動員、遺伝資源の利益配分 |
パリ協定と昆明・モントリオール生物多様性枠組の決定事項
パリ協定は気候変動分野、昆明・モントリオール生物多様性枠組は生物多様性分野において、それぞれの中核をなす合意文書である。両者はともにCOPで採択された合意文書だが、法的な性質には違いがある。
パリ協定はCOP21で採択された「条約」であり、締約国にはNDCの提出・維持や進捗報告といった手続上の義務が生じる。これに対し昆明・モントリオール生物多様性枠組はCOP15の「決定」として採択された文書であり、それ自体に条約としての拘束力はない。
【パリ協定の仕組みと目標】
パリ協定の長期目標は、世界の平均気温上昇を産業革命前より十分に2℃を下回る水準に抑え、1.5℃に抑える努力を追求することである。各国が自ら設定した目標を提出し、BTRによる報告とGSTによる評価によって野心を引き上げていく設計で、達成そのものは各国の取組に委ねられている。
【昆明・モントリオール生物多様性枠組の仕組みと目標】
この枠組は、2050年に向けた4つのゴールと、2030年までの23のターゲットで構成される。よく知られるのは、陸域・海域のそれぞれ30%以上を保全するターゲット3、いわゆる30by30である。枠組みの実施は各国が策定する生物多様性国家戦略(NBSAP)を通じて行われ、各国は世界目標に貢献する形で国別目標を定める。どの生態系をどれだけ保全するかは、国土の条件や生物相によって異なるためである。各国は国別報告書で進捗を報告し、その結果はグローバルレビューで点検される。
| 項目 | パリ協定 | 昆明・モントリオール枠組 |
|---|---|---|
| 採択 | 2015年(COP21) | 2022年(COP15) |
| 法的性質 | 条約として手続上の義務を伴う | COP決定であり拘束力はない |
| 目標の例 | 気温上昇を2℃を十分下回る水準に抑え、1.5℃を追求 | 2030年までに陸域・海域の30%以上を保全 |
| 実施の方法 | 各国のNDC | 各国の国家戦略と国別目標 |
| 進捗の確保 | BTRとGST | 国別報告書とグローバルレビュー |
COPの決定事項が企業の情報開示や戦略策定に及ぼす影響
COPの合意文書は、それ自体が企業に直接適用されるわけではない。COPの決定は各国の目標と制度に反映され、各国の制度と開示基準を通じて企業に届く。本章では、この経路を気候変動と生物多様性の分野ごとに確認する。
気候変動:COPの合意から各国の制度・開示基準へ進む経路
気候変動分野では、COPの合意を受けて各国がNDCを策定・更新し、各国の制度と開示基準の2つの経路で企業に届く。NDCは、エネルギー政策、燃料規制、炭素価格制度として各国の政策に落とし込まれる。
日本では2026年4月にGX-ETS(排出量取引制度)が本格稼働し、CO₂の直接排出量が過去3年度の平均で10万トン以上の事業者は参加が義務づけられた。
開示基準では、TCFD提言がISSBに引き継がれ、日本ではSSBJ基準が策定された。時価総額3兆円以上のプライム市場上場企業は、2027年3月期から有価証券報告書での開示が義務づけられる。SSBJ基準では、気候関連のリスクと機会や移行計画の開示が求められ、将来の政策環境を前提に置く必要がある。COP28で合意された化石燃料からの移行は、各国のエネルギー政策や炭素価格制度の方向性を左右し、シナリオ分析の前提に影響する。NDCの更新やCOPの結果で政策環境が変われば、移行計画も見直すことになる。
【関連コラム記事】
GX-ETSについて:『GX推進法に基づく排出量取引制度を理解する』
TCFDについて:『TCFD とは:4つの開示項目とSSBJ新基準への移行』
SSBJについて:『SSBJ とは:日本版サステナビリティ基準入門』
生物多様性:国際目標から開示枠組み・国別戦略へ進む経路
生物多様性分野では、昆明・モントリオール生物多様性枠組のターゲット15が出発点となり、開示の枠組みと国別戦略を通じて企業に届く。ターゲット15は、大企業・多国籍企業および金融機関が自然への依存、影響、リスクを評価・開示するよう、各国が措置をとることを求めている。これを企業側で実践する枠組みとしてTNFDとSBTNの活用が広がっている。
TNFDやSBTNは2026年10月時点で任意の枠組みにとどまる。一方、気候分野でTCFD提言を引き継いだISSBは、2026年4月に自然関連開示の要求事項を提案することに合意し、2026年10月に自然関連開示に関する実務記述書(Practice Statement)の公開草案を公表した。草案では適用は任意とされているが、最終的な形式は意見募集を踏まえて検討される。また、気候分野と同様に、自然分野でも開示が義務化される可能性がある。
国別戦略では、日本で生物多様性国家戦略2023-2030が策定され、企業に自然への依存度と影響の評価、目標設定、情報開示を促している。2024年にはこれを具体化するネイチャーポジティブ経済移行戦略も策定された。
自然分野の評価は、排出量のような共通の尺度がなく、場所、原材料の品目、事業プロセスごとに行う。そのため、まず自社の事業がどの地域のどの自然に関わっているかを特定する。たとえば調達する農産物や木材の産地を、拠点ごとに整理する作業である。この結果は、どの地域や品目から対応するかを決める材料となり、調達方針や目標設定の検討の起点になる。
【関連コラム記事】
TNFDについて:『TNFD とは:4つの開示項目とLEAPアプローチ』
SBTNについて:『SBTNによる自然関連目標の設定:SBTiとの違いと企業の実務手順』
まとめ:2つのCOP動向を踏まえたサステナビリティ推進
気候変動COPと生物多様性COPは、別個の条約のもとにある独立した会議である。一方、調達する農産物、木材、鉱物、水資源が気候と自然の双方に関わるように、企業の現場では2つの分野が重なる。
気候変動COPも生物多様性COPも、その決定はいずれ企業の実務に及ぶ。双方の動向を継続して追い、自社のマテリアリティに応じた情報開示と戦略策定へ活かすことが、中長期的な企業価値の向上につながる。
参考資料
【サステナビリティ 情報開示・SXに関するコンサルティング支援】
ブライトイノベーションでは、SSBJやCSRD等の最新基準に対応した有価証券報告書・統合報告書での情報開示をはじめ、ダブルマテリアリティの特定、TCFD・TNFDに基づくシナリオ分析、中長期ロードマップの策定まで、実務化と開示を包括的に支援しています。